岡山ジム主催興行に向けての選手インタビュー特集です
第5試合 有限会社トータルプランニングルミナス presents 53㎏賞金トーナメント ZAIMAX MUAYTHAI オープンフィンガールール 準決勝戦 Bブロック 3分3回戦(延長1ラウンド)
花岡 竜(ハナオカ・リュウ/橋本道場/KNOCK OUT BLACKスーパーフライ級王者、前INNOVATIONフライ級王者)
HIROYUKI(ヒロユキ/RIKIX/元新日本バンタム級王者、元新日本フライ級王者)
2022年3月13日興行のメイン企画「有限会社トータルプランニングルミナス presents 53㎏賞金トーナメント ZAIMAX MUAYTHAI オープンフィンガールール」に出場する花岡竜の特集インタビューを公開させていただきます。今年1月、石井一成に激勝した花岡だけに、これまでの半生を網羅したロングインタビューとなっております。
文責:岡山ジム主催興行広報部
——今年1月9日、NO KICK NO LIFEの石井一成戦、ヒジ打ちと首相撲無制限の純キックボクシングルール5回戦で3ポイント差のジャッジが2名というユナニマスデシジョン(判定3-0)の圧勝、近年まれにみる超金星奪取、“平成最後の怪物”の面目躍如、驚くほかありませんでした。
一番驚いているのは僕かもしれません。戦前は負ける気しかしなくて「救急車で運ばれるからよろしく」ってジム仲間に言っていたくらいですから(笑)。
——勝算なき無謀な挑戦だった?
勝つべき戦略は完璧に組み上げていたし、しかもそれが予定以上に上手くいって予想外に伸びていった試合内容。これまでいただいた橋本師範(橋本道場の橋本敏彦会長)の教えが全部出た、というか出過ぎた、こんなの初めてです。試合中に一皮も二皮も剥けて成長していく実感がビッシビシにありました。勝てる材料は手元にあったんですから「無謀な挑戦」と言うと、それだけのものをすでに伝授してくれていた師範に失礼な気がしますが、「ここまで自分の力が発揮できたことに驚いた」というのが正確なところです。
——そんな石井戦のオファーを聞いた当初は、やはり悩んだ?
いえ、秒の即答で「お願いします!」でした。なんなら、師範が話し終わる前に食い気味に(笑)。
——それ程にやりたい相手だった?
憧れと尊敬しかないスーパーチャンピオンですから。僕がプロデビューする前にKING OF KNOCK OUT初代フライ級チャンピオンになって日本軽量級最強の絶対王者でしたから、階級が同じでも目標というにも遥か遠い存在でした。それから僕もそれなりに実績を上げて声をかけていただいたとて、こちらが即OKでもあちらが「格が違うよ」とオファーを断られてもおかしくないと思っていました。石井選手には、メリットがない試合。それを堂々と受け止めていただいて、試合後にも気持ち良く声をかけていただいて、感謝と共に尊敬の気持ちはむしろ高まっています。
——試合内容は驚く程、終始、花岡選手ペースでした。差し支えなければ、先に話された“勝つべき戦略”を教えていただけませんか?
序盤は、石井選手の出鼻を抑えてストレスを溜めさせて、そこでイラつかせて中盤から多少でも雑になる隙を突きつつ、終盤にかけて増す激しさに合わせてミクスドアップしていくといった感じで。
——その作戦がハマった?
というより、作戦遂行中、2ラウンドにパンチでぐらつかせることができて一気に試合の緊迫感が高まって予定よりも早く加速しだしました。しかし、相手は逆転勝ちが常の石井選手ですから、極限まで集中力を高めてこちらの隙を見せないようにアップしていく感じでドはまりできたなと。
——これ以上ない満点の試合?
そう感じてしまったら成長がないので、何度も試合を見返して反省しています。判定で勝ててもKOではなかったのですから「ここをこうすれば倒せた」ってポイントを見つけて練習に活かしています。
——まだ伸びしろがありそうなところが頼もしくも恐ろしい花岡選手、注目の次戦が「オープンフィンガーグローブ使用のワンデイトーナメント」という過激極まりない企画に乗られたことには驚くばかりです。
石井戦前の昨年末から今年の目標を“挑戦”と決めていたので、これもその一環です。初めてのオープンフィンガーグローブもですが、53kg契約や大嫌いなワンデイトーナメントなど課題だらけです。
——試合体重に関して、2019年のプロデビュー時は最軽量級のフライ級(50.8kg)でも軽そうだった花岡選手が、昨年7月22日にウィサンレックMEIBUKAI戦では56kgで、しかもハイキックを効かせて激勝されました。現在のベストウェイトはどこにあるのでしょう?
ベルトを持っているフライ級は50.8kgで、昨年11月28日の老沼隆斗戦が51kg契約、石井戦が52.5kg契約で、ウィサンレック戦の56kgは、先輩の宮元啓介さんの欠場代打で仕方なくの56kgですから。今もフライ級には落とせるけどちょっとキツいので52kgくらいがいいところでしょう。これを今年中に53kgにもっていきたいところです。
——53kgというとRISEで大型トーナメントがあった注目のクラス……その真意は後に回して、今回の岡山ジム主催興行、主役といえる花岡選手の参戦に際してのインタビュー、折角ですから生い立ちもお聞きしたいところです。家族構成は?
父と母、4つ上の姉です。父はサラリーマンで、母はパート主婦、どこにでもある中流家庭だと思います。
——幼い頃、どんな子供でしたか?
小さくて太っていてスポーツが苦手で内気。正直、イジメられていました。
——イジメ?
無視されたりする程度の軽いものではありました。人見知りは今もですが、他人と波長が合わないとすぐに顔に出てしまうとか良くない癖もあって。けど、独りでも平気な性質で、いわゆる“陰キャ”でした。
——そんな花岡少年がスポーツや格闘技と出会うのは?
サッカーをしたこともありますが半年程度でやめてしまい、水泳は小1から小3くらいまで続きました。そんな中、小2の終わり、柔道をしていた友達と喧嘩になって背負い投げを喰らってリアル失神してしまったんです。
——小2が失神? 危険ですね。
頭のまわりをヒヨコがピヨピヨの感じです(笑)。そこで親がダイエットも兼ねて格闘技をやらせようと当時立川にあった近所のジムに連れていかれたんです。
——それは本人も望むところ?
いえ、泣いて嫌がって、引きずられるように無理やり引っ張っていかれて駐車場で30分はグズって抵抗しました(笑)。
——そこまで嫌がった状態から習い事が続くものでしょうか?
それが始めたらすぐに夢中になってしまったんです(笑)。
——何故また?
シンプルにキックとパンチが楽しくて。
——それが試合をするに至るのは?
そのジムの本部道場から出稽古に来た同年代の子にスパーリングでボッコボコにされて、僕というかむしろ父が悔しがって、その本部に週4、5回通うようになったんです。すると痩せもして試合も出るようになって。
——後に空前絶後のアマチュア28冠王となる伝説が始まる?
いやいや、デビューから3連敗です。それが悔しくて悔しくて。4戦目でようやく勝てた時にとんでもなく嬉しくて、そこからもっともっとと深くハマっていった具合です。
——将来、プロのチャンピオンを目指すようになるなど?
そこは全然なーんにも考えていなかったです。将来の夢とかもなくて、目の前の目標がこなせればいいみたいな。そんなこんなで小4で初めてのベルトを巻きましたが、人生初勝利ほど嬉しいものでもなかったです。
——そこからの転機は?
練習環境を変えて橋本道場に移ったことです。
——ジュニアアマからトッププロまで延々と名王者を輩出し続けてきた名門、橋本道場との出会い、当初の感想は?
もうレベチ(レベルが違う)の極致です。
——その頃すでにひとつのタイトルホルダーではあったわけで、それなのに何がそこまで違う?
ベルトを巻いていようが何だろうが同年代の選手たちに人生最大ボコクソにされて、「何が違う」って練習量があまりにも。見学体験で17:30から19:30がジュニアクラスって思っていたら、師範が「終わりまでやってく?」って言われて「???」って戸惑いながら参加していたら21時過ぎまで小学生たちがずーっと休みなく練習。約4時間ですよ。量だけじゃなく質も最上級、それを週6日やるっていうんだから強くなりますよ。すぐに惚れ込んで入門しました。
——そこから快進撃が?
少年マンガみたいな極端な結果の出方でしたね。それまで勝ったり負けたりだったのが、ほぼ毎週末試合なのに年に2回くらいしか負けなくなって、はじめは全然勝てなかった先に話をした前のジムの選手に3連勝。気が付けばベルトだらけになってしまい(笑)。
——それはステージママならぬお父さんの奮闘サポートも大きかった?
僕が望むから大会を探して地方遠征でも車で連れて行ってくれて、日曜日がほとんどそれだけになっちゃっていましたけど、父は決して無理に“やらせる”ではなく「好きなようにやれ」と僕を無限にサポートしてくれる姿勢でした。
——中学は部活などされませんでしたか?
ジム練が忙しくて眼中にありませんでした。
——そこまで夢中になってしまった要因は、先々のプロを見越してとか?
いや、ひたすら“強くなる”って感覚の中毒でした。練習に何かで行けない時は禁断症状で落ち着かなくなるみたいな(笑)。勝つ気持ち良さ、負ける悔しさ、強くなる実感、どうにも止まりませんでした。
——そこまで成長できる橋本道場の魅力を語ってください。
師範の凄さに尽きると思います。選手ひとり一人をよーく見ていて、それぞれにあった技を細かく指導していただけます。僕らはそれに齧りついてモノにすれば絶対に強くなれる。試合の度、新たな技術が加わって成長が実感できます。とにかく練習の質量がエグいのでスタミナは尽きないし、テクニックは最高、周辺はライバルだらけ、先輩には安本晴翔さんとかメチャクチャ強い人がずっといる。ついてさえいければ自動的にレベルが爆アガりする。世界一でしかないです。
——そんな夢中の花岡選手がプロを意識しだすのは?
中1からムエタイオープンのヒジ打ちあり、ヘッドギアとレッグガードなし、ファイトマネーも出る試合をしていたので、それがプロなのかセミプロなのか違いも分かりませんでしたし、プロに特別感はありませんでした。
——そんな試合を中1から? 戦績は?
4、5戦して無敗です。
——確かに今のアマトップは、プロのランカークラスの実力者がひしめき合い凄まじいレベルになっているので、その頂点である花岡選手にしてみればアマとプロに壁は感じないのでしょう。
中3の8月、WBCムエタイのアマ王座戦を最後に高校受験準備でアマ引退して、約半年、練習を休みました。
——狙っていた高校の受験が手強かった?
そんなレベルが高いところではない普通の都立高校ですが、推薦枠が多くて将来の選択肢が広いってことで選びました。勉強はオール3が常の平凡な成績だったので、それなりに受験も頑張らなくちゃならなくって。
——結果、志望校に入学して、そこからまたキックボクシング三昧?
そうではありますけど、入学しすぐ(2019年5月19日)にプロデビューで、毎週末に試合だったアマ時代と違って試合ペースも年に4、5回になるから休日もできて、バイトこそしませんでしたけれど、ジム仲間以外の友達もできて、彼女も作れて、充実の高校ライフを過ごせいています(笑)。
——プロ選手としては、高校3年間の間で2冠奪取を含め石井一成戦の激勝まで高密度に駆け抜けているわけですが、将来の職種も定めて引退時期もカウントダウンされているとか?
はい、消防士になろうと決意して、大学はそこに直通する国士舘大学体育学部スポーツ医科学科を選択して、AO入試ですでに合格しています。新卒で消防士になるなら約4年でプロキックボクサーは引退かなと。
——現在、国内の頂点クラスに立たれている状態で、そこから4年は十分な期間かもしれませんが、それにしても“引退”と聞くと寂しい気がします。
あくまで予定で、その頃の状況でどう転ぶか分からない部分はあるので(笑)。けど、あと4年で完全燃焼は目指したいです。
——消防士への志望のきっかけは?
ジムの会員のお父さんにハイパーレスキュー隊員の方がおられて、それが格好良かったんです。40代でムッキムキで人の命を救う最前線に立ち、日頃から鍛錬を欠かさない仕事って素敵だなと。尊い職業でもあり、身体を鍛えることが業務になるって理想です。
——話をキックボクシングに戻しましょう。ZAIMAXトーナメント、厳選された4選手、HIROYUKI、平松侑、MASA BRAVELYと全員チャンピオンの強豪揃いで、組合せは前日計量後の抽選制、当たりを引いた1名が対戦相手を指名するシステムとなっております。花岡選手は、指名権を獲得できたとしたら、準決勝1回戦、誰と戦いたいですか?
全員です!
——それは豪胆な。叶うことはない望みですが、意気込みは伝わりました。
実際、指名権をいただけたら、まずはHIROYUKI選手とやりたいです。
——それは何故?
以前(2021年2月24日)、判定(1-1)で引き分けていて、決着戦は望むところ。どうせやるなら、お互いが無傷の万全状態で。
——「ワンデイトーナメントが大嫌い」と言われましたが、それは何故?
昨年(2021年9月25日)、KNOCK OUTの王座決定トーナメント(初代KNOCK OUT-BLACKスーパーフライ級王座決定トーナメント/花岡竜、濱田巧、空龍、心直が参戦/花岡×濱田の決勝戦で花岡が勝利)がキツくてもう。カーフキックで脚を効かされたまま時間を置いてチャンピオンクラスと連戦するのはクレイジーですよ(笑)。
——けど、更に過酷になったルールでワンデイトーナメントをまたやると?
“挑戦”ですから(笑)。
——14戦12勝1敗1分と圧倒的な戦績を誇る花岡選手ですが、唯一の1敗が約1年前の昨年(2021年2月24日)、判定0-2の吉成士門戦です。これについて思い起こすことは?
試合内容で負けた自覚がないので、「しょうがねっかー」くらいの感じです。やり返したい気持ちはありません。ただ、それまで“無敗”と騒がれて、自分の戦績に対してプレッシャーがかかっていたので、その呪縛から解き放たれた感覚を得られました。これは大きかった。その後のウィサンレック戦も無敗ではなくなったから「負けたら負けたでよし」と急な代打オファーでも受けて、ノビノビと戦うことができて明らかにパフォーマンスが伸びました。と、そこは前向きに捉えています。
——頭抜けた実績を持つ最注目選手であり、優勝候補大本命として花岡選手が優勝したとして、その先に見据えるものは?
誰というより大きな輝く舞台。そこで53kg前後で一番強い相手とどんなルールでもやりあえれば。
——ヒジ打ちあり、首相撲無制限の純キックボクシングルールこそが花岡選手のホームというか最も得意なところだと認識しておりますが、ルールにこだわらない?
ヒジ打ちも首相撲も得意で好きですが、そこに“どうしても”のこだわりはありません。
——これは意外な気がします。50kg台の軽量級は、ムエタイが圧倒的な選手層とレベルの高さを誇り、打倒ムエタイこそが最高の目標とする向きもあります。
ムエタイ、別に興味はないんです。タイ人と試合をすることに特別感はありません。ただ強いのは間違いないし、ひたすらに強者とやりたいだけ。その上でルールは、ムエタイでもK-1・RISE系(ヒジ打ちなし、首相撲制限あり)でもなんでもいいんです。
——相当の実力派王者として鳴らす老沼隆斗戦(2021年11月28日)は、強烈な左ボディーブロー一発で1ラウンドKO勝利を収めましたが、それまで超絶テクニシャンの印象が強い花岡選手のパンチ力に驚きました。
最近、橋本道場の練習に加えてボクシングジムでも学んでいるので、その成果が上手く出たって感じですね。リングの中ならヒジや組技がなくても何不自由なく戦えます。
——ということは、RIZIN、K-1、RISEのヒジ打ちなしルールにも?
もちろんです。今回のトーナメントで優勝すれば、更に相当の評価をいただけるでしょうし、その実績を持って昨年RISEの53kgトーナメントのような企画にだって乗りたいし、完全優勝する自信があります。
——そのRISEトーナメントは下馬評を覆して優勝した風音選手が筆頭となります。
あのトーナメントの参戦選手なら誰とでもやりたいです。その為にRISEやRIZINに乗り込みたいし、それができる限り大きな舞台であってほしいと願います。
——石井一成、風音、志朗、大崎一貴など軽量級が空前絶後に盛り上がる現在の日本キックボクシング界、ファンが望むのは、最強最後の大物として吉成名高戦こそが頂上対決ではないでしょうか?
そんな選手とは、最高の舞台でやらせていただきたいですね。例えば、今年6月に開催されるという那須川天心×武尊のリングとか。
——その際のルールは?
キックボクシングの範疇であればなんだっていいです。
——那須川天心のボクシング、平本蓮のMMA転向などキックボクサーの転身が話題になっておりますが、その方向は?
僕はキック一筋です。まだまだ戦いたい選手、上がりたいリングがありますから、それらを極めつくしたらまだ見えてくるものがあるかもしれません。けど、その頃にはタイムアップで消防士になっているかも(笑)。
——ともかくあと4年でキックの最頂点に立つと?
そこまでいけば終わりじゃありません。その間に下で育って昇って来た最強の挑戦者を迎えて、そこに完勝して“最強”を防衛してからやめられれば最高です。
——途方もない指標ですが、石井一成に勝利し、このZAIMAXトーナメントを制したら、その道筋がはっきりと見えるのでは?
はい、橋本道場という不沈艦に乗って目前の試合に勝ち続ければ、必ず最強最高に辿り着きます。見ていてください!